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その先の世界へ



時にアートディレクター、時にフォトグラファー。
時にパリ、時に東京。
その物静かな佇まいからは想像もできないほど、縦横無尽な彼の仕事ぶりは、国境を越え、人種を越え、ジャンルを軽々と越えてく。
桜の季節、東京にいたMote Sinabel Aoki氏に話を聞いた。




目黒区にある彼のスタジオ兼住居は、最上階にあるペントハウス。
まぶしいばかりに光が差し込み、風が通り抜ける全面開口の明るい空間だった。
仕事のたびに、パリと東京を行き来する。
求められる仕事次第では、アートディレクションだけでなく、自らフォトグラファーとなり、スチールもムービーも撮るのだという。
そんな彼の中には、国境や、仕事の、ボーダーはない。
もしあったとしても、それを軽々と飛び越えてみせる。
求められるままに、自由自在に。




——もともとはADから始められたとお聞きしました。

建築を勉強していたんですが、大学4年の時にパリへ。国立の美術学校であるエコール・デ・ボザールに行って彫刻の勉強を始めたんです。そこから、パリでアートの勉強をしながら、洋服の絵とか描くことになったりしているうちに、デザイナーと仕事することになって、いつのまにかファッションの世界に入ってましたね。当時のファッション業界は複雑な世界だったから、紆余曲折を経て、雑誌のADになりました。

——その頃はずっと海外に?

ロンドンは仕事のために行っていて、拠点はパリでした。何年かいて、25歳くらいの時に日本に戻ってきて、事務所を立ち上げたんですね。
でも90年代の終わりくらいから、ニューヨークへ行きました。ちょっと東京に飽きてしまって。結婚後、パリへ行くことになり、子どもが生まれてからは東京に5年ほど戻ってきたんですが、またパリへ。いまは東京と行ったり来たりしています。

——ADだけでなく、写真を始めたのはいつですか?

ちょうどニューヨークへ行く前ですかね。いまはどちらかというと写真を撮るのがメインなんですけど、ADの仕事もやっています。ADとひとくちに言っても、枠が広がったという感じです。ブランディングや戦略をも含めたディレクションをやっています。
パリと日本を行ったり来たりすることで、いろいろ見えるものもありますから。
たとえば、今回東京に帰ってきて思ったのは、日本人が冒険しなくなったのかできないのか、保守的になっている気がしました。それでは前に進まないと思うんです。誰かが“見せて”あげないと。

——“見せる”?

いまは、その先にある“出口”を誰も見せる人がいない状態なんだと思うんです。希望とか出口とか、その先の世界を見せてあげないと。
「こういうのいいな」とか、「こういうの買いたいな」とか、自分の欲望とかを思い出させるようなね。
そういうポジティブなエネルギーのなかで表現したいなと思っていて、写真も、デザインもそういう気持ちで仕事しています。

——パリはいかがですか?

一気に物事が進んで盛り上がって行く感じなんです。コンペティションがあって、ニューヨークやロンドンからも選りすぐりの人が集まってくるから、そういう中で仕事するのはやりがいがあるし、すごく刺激になりますよね。海外だと作品づくりの延長が仕事であり、プロの集まりなんです。その時々で最適な人が選ばれる。僕は向こうでは、ADはやろうと思っていなくて、フォトグラファーとしてやっているんです。いろんなことをやっている人より、これがスペシャリティで、こういうスタイルだからこそ、評価される。キャラクターがない人ははずされてしまいますから。本当にいいものを作るために、いろんなプロが集まってくるフランスのあり方は、とても強いと思います。

——最近手がけたお仕事を教えてください。

ジーンズブランドのマリテフランソワジルボーの「NO WATER NO CHEMICAL」(http://nowaternochemical.org/)プロジェクトですね。
「ストーンウォッシュ加工」を発明して、世界で初めて工業化に成功したブランドなんですが、制作過程で大量に消費される水を節約するために、水を使わずにデニムに表情をつけるレーザー加工を編み出したんですね。
どういう風に商品が作られているかといった背景は、買う側はあまり知らないし、知ろうともしていない。値段でよしあしを決めるのは、こういう背景を知らないからなんじゃないかって。だから、アーティストを集めて、そういう背景を知ってもらうことにしたんです。ただのインタビューではなくて、「みんなどう思う?」って聞いて、その声を集めることって大事なんじゃないかなと。
ものを作ることもそうだけど、生活のあり方そのものが、いま新しいシステムに変わりつつあると思うから。

——写真もmoteさんが撮ってらっしゃるんですね。

「こういう絵が撮りたい」ってすごくはっきしりしているから、自分で撮れるものは撮りますね。フォトグラファーに、コンセプトを渡して、自分が思ってないもので戻ってくると、自分でいじったりしてしまってたんですよね。だったら、自分で撮ったほうがいいかなって。

——トータルで自分の世界観をつくるということ?

そこまでのエゴはないです。写真を仕事にするつもりはなくて、僕が撮れるものは撮るというくらいで。最終的にいいものが作れたらそれでいい。自分が一番だって思っていないし、いろんな人がいて、それぞれ得意な分野があるから、お互いにリスペクトして仕事はしたい。パリではすごくそれを感じるんですよ。みんなすごく表現してる。

——これからも日本とパリを拠点に?

撮るものがあればどこへでも。どうしても動きたくなっちゃう性格みたいで、ずっと同じところにいられないんですよね。20年間くらいこのスタイルなので。新しい刺激をいろんな国で受けながら、移動の中からインスピレーションが生まれるというか。常に動き続けることで何かが見えてくるはずだから。

ELLE JAPON 2011年12月号 “HERMES”


ELLE JAPON 2011年12月号 “HERMES”
photographer : mote sinabel
fashion director : naoko kikuchi
styist : satoko takebuchi
hair : tetsu
make-up : mina


VISIONAIRE SIXTY “RELIGION”


VISIONAIRE SIXTY “RELIGION”
Photographe Mote Sinabel Aoki
Stylist Géraldine Saglio
Make-up artist Inge Grognard@Jed Root
Hair stylist Tomo Jidai@Streeters London using Shu Uemura Art of Hair


NO WATER NO CHEMICAL


NO WATER NO CHEMICAL
http://nowaternochemical.org/


モート・シナベル / MOTE SINABEL


ビジュアルディレクター、フォトグラファーとして、 パリー東京を中心に、ファッション、音楽、広告などの分野で 数多くの映像 グラフィックヴィジュアルの制作にたずさわっている。
www.motesinabel.com