TOPICS by [R]studio

記憶の彼方に



撮影現場に携わるスタッフの中でも“裏方”とされる大道具などの美術。
しかし、その場の空気を一変させるほどの強い力を発し、その世界観を作り上げるための要諦であるセットデザインを手がけているのが、enzo氏だ。
そのクリエイティブの源を探る。




enzo氏のアトリエを訪ねた。その界隈に突然、不思議な空間が広がる。
倉庫を改装したというそのアトリエの扉は大きく開け放たれ、中には所狭しとあらゆるものが“存在”していた。
廃材、古びた家具やぬいぐるみ、人形、工具やペンキでさえも、ひとつの世界を形作っている。
それらは倉庫に、ただ置かれているのではない。
それらはきっとenzo氏のイマジネーションのもととなる大事な宝物。
世界を旅して集めるというこれらの道具は、enzo氏の手にかかればたちまち息を吹き返す。それまで静かにこのアトリエで眠っている。
ここは、まさにenzo氏の“おもちゃの箱”だった。



アトリエ




——enzoさんがどういったお仕事されているのか知りたいのですが。

大きく言って、撮影の仕事全般ですね。 広告やミュージックビデオなどのムービー、今までやらなかったんだけど、来年は映画も。もちろん、映像だけでなく、グラフィックもやれば、ショップの内装インテリアもやりますよ。僕からしたら、撮影も、内装も変わらないので。

——どういうきっかけでこの世界に?

16歳くらいからやってます。学校とか行く気がしなかったので、舞台屋さんの下働きを始めて。初めの4年間は能の舞台だとかコンサートや、テレビの番組やドラマの撮影現場までなんでもやっていました。いろんな所をまわって、セット建てるっていう仕事ですね。
そこで、組み立て方とかいろんなこと勉強させてもらって。
で、ある時、「あとはもう勝手にやろう。好きなものを作ろう」って辞めました。 だから、もともとこういう職業をやろうと思って始めたわけじゃなくて、好きなもの作りたいってだけで。家でただ作って、楽しかったし、別にどっか勤めなくても、 なんか食べていける気がしたんですよね。

——美大を出られて、現代アートの道を進まれて……なんて展開を勝手に考えてましたけど。

ぜんぜん、ぜんぜん。3歳までアメリカにいて、東京に来て、中学を出てからは、 何もしたくないって思ってたくらいで。学校も行きたくないし、一人で過ごしたくて、好きなことをすればいいやって思ってました。

——ものづくりをする、そもそものきっかけは?

おじいちゃんが大工さんだったんですよ。子どもの時暮らしてたのが母の実家のおじいちゃん家だったんです。家の庭の半分に鉋(かんな)をかける部屋みたいなのがあって。道具とか材料がだーっと並んでて。
おじいちゃんはもう亡くなってたけど、そこの場所がそのまんま残ってて。そこが小さい頃の僕の居場所で、遊び場だったし、一番心地いい場所だったんです。その頃のまま、今も生きてる感じですね。そこが原点かな。

——このアトリエも、まさに同じですね。

何年か前に実家に行った時に、ある写真を見たんです。小さい俺が庭でイスにぽんって座らせられてる写真。そのイスが、そこにあった廃材で適当に作ってあるものなんだけど、それがね、僕がほんの1週間前くらいに作ったものとなんら変わりなかった(笑)。
おじいちゃんが作ったそのまんま、僕もそっくりなものを作ってたんです。もうその時に見てたんだなって、驚きましたね。

——ルーツは家族にあったんですね。

日常にあったんだなって思いましたね。決して、難しいことをやってるわけじゃなくて、昔から同じことをずっと、変わらずやってるだけなんですよ。

——何かを作る時のアイデアの源は?

あらゆることすべて、かな。内側から出てくるものもあるし、そこらへん歩いてて 「あ、いいな」って思うものもあるし。
でもやっぱり人から受けることは大きい。自分一人で何かするわけじゃないから、 仕事を組む人によって、作るものが変わってきます。
大きいものを作ろうとすると、かかわる人もたくさんいるから、おもしろいですよ。 自分でもびっくりする時があります。「こんなものつくるんだ!」って。

——ビジュアルイメージっていうのがクリアにある?

どんどんクリアにしてくって感じですね。やってくうちにアイデアが湧いてくる。 先にそんなに決め込んでないから、作ってる時にふと生まれる、「これもいいよね」 っていうのを常に飲み込めるようにしていたい。だから決めない。人とものを作っ ていく時、自分の中へ取り込んで行くことで、よりよくなっていくものだから。

——セットは毎回ばらしてしまうものなんですか?

毎回壊しちゃうんですよ。たとえばこの廃材も、明日には船になってるかもしれなくて。船になってる時間なんてたかだか1時間くらいで、またばらばらになって、 ここに戻ってくる。だから、そのままの形で残しておくってことはないんです。 そういう意味では、俺がこの仕事に向いてる理由のひとつは、“執着”がないこと。 明日はもう他のことに興味が湧いてるんです。今日と明日で「いいな」って思うものが違うから。

——映像なり、写真の中に、その姿は残ってはいますもんね?

そう。壊して、ばらしてしまっても記録として写真なり、映像なりに残ってます。 僕はその“残ってる”ということだけを持ってる感じですね。その写真すら僕は持ってないんです。それを作ったっていう記憶を僕が持っていれば、それでいいんです。

——スタジオで撮影することもあるかと思いますが、どこがよかったですか?

十里木スタジオは、良かったですね。というより嬉しかったんです。 通常、ハウススタジオって、美術の僕らがスタジオに行っても、基本的には何もしちゃいけないんですね。そこにあるものを使うってだけ。でも、ここは、「何をしてもいいよ」って言ってくれて。「撮影ってそういうもの。したいことしたいよね」 ってわかってくれてた。
建物はこわしちゃダメだけど(笑)、その発想は正しいと思う。

※参考



——スタジオの何を重視しますか?

“心地よさ”ですね。白ホリのスタジオでもそう。こもってる感じがするとか、風を感じないスタジオは苦手で。心地いいのが一番重要かな。空気とか、光とか、風 とか。


UNIQLO UNDERCOVER

UNIQLO UNDERCOVER

UNIQLO UNDERCOVER

UNIQLO UNDERCOVER
Photography: Katsuhide Morimoto
Art direction: Tetsuya Nagato
Styling: Toshio Takeda
Hair and Makeup: Katsuya Kamo
Set design: Enzo

enzo


1972年生まれ.ARTBREAKERS所属。R.mondinc.主宰。
PVやCMなどのムービー撮影、雑誌や広告等のスチール撮影、
店舗デザイン、展覧会などのオブジェ製作など、あらゆる
メディアにおける美術製作を手がける。